1. 安全率を意識することの重要性
取説通りに使われない現実
現場では「急がば回れ」より「急げば当たる」。操作ミス、ちょっとした衝突、荒っぽい扱い――こうした非定常条件を無視すると、ほんの小さな破損がライン停止を引き起こし、顧客に甚大な損害を与えます。機械は“消耗材”でもある
とりわけ荷役機械は稼働率が高い一方で、メンテナンスが後手に回りがち。設計段階で余裕を持たせないと、寿命予測は机上の空論になります。
2. 安全率(Safety Factor)の基本
許容応力・・・部材が耐えられる最大応力 材料強度 × 1/安全率
安全率・・・破壊に対して持たせる余裕係数 荷役機械では3.0 以上が基本
ポイント
静荷重主体の構造部でも、衝撃荷重・疲労・クリープを忘れずに係数へ反映。
計算上の最小安全率 > 実機の最小安全率。溶接部や応力集中部は解析値に ×1.3〜1.5 を追加で掛けると安心。
3. リスクベース設計のステップ
使用シナリオの洗い出し
正常運転/段取り替え/メンテナンス/異常時対応を区別
「ぶつける」「ねじる」「逆回転させる」などヒューマンエラーを列挙
頻度 × 影響度で優先順位づけ
シナリオ 頻度 影響度 優先度
誤操作で横振れ衝突 高 高 ★★★
過荷重吊り上げ 低 極高 ★★★
潤滑不足による損傷 中 中 ★★
安全率/冗長化/フェールセーフの選択
★★★:安全率アップ + 冗長構造(ダブルリミットスイッチ等)
★★:安全率アップ or 定期交換設計(摩耗部品の見える化)
★:表示・警告で十分
故障モードと影響解析(FMEA)
破断/塑性変形/疲労亀裂/摩耗/焼付き…
それぞれの検出手段とライン停止リスクを評価
実機テスト & フィードバック
オーバーロード試験・衝撃試験・長期稼働試験を経て係数を再校正。
4. 頑丈さ vs. サイズダウンのバランス
稼働率が高い場合
→ 壊れたときの損失が大きいので「安全側設計」。多少重量・コスト増でも生涯コストは低くなる。使用頻度が低い場合
→ 削れる重量・コストは削る。「安全率は守りつつ部材寸法を最適化」し、過剰設計を防ぐ。
5. メンテナンスが十分でない場合も想定しておく
制御グリスニップルを省き終身潤滑を採用(ダスト/ウォータシール付き)
摩耗部品は工具レス交換にし、交換周期をQRコードで提示
事故に直結する部品(ワイヤーロープ、チェーン等)は寿命2倍設計 + 目視点検しやすい構造
6. まとめ—「安全率×リスクベース」で顧客に対し最大価値を提供する
安全率を3や4に設定するのはスタートライン。真の安全設計は、
リスクを具体的に洗い出し、
頻度と影響度で対策レベルを決め、
メンテ不足まで織り込んで余裕を持たせる、
――このリスクベース思考とセットで初めて機能します。
多少大きくても「壊れない安心」は顧客の生産を止めず、あなたと顧客双方の利益を守る保険になります。逆に“使い方”を聞いたうえでのサイズダウン提案は、コストメリットという形で顧客に響きます。
設計者の腕の見せ所は、安全率の数字そのものではなく、 “どこにどれだけ余裕を配分するか” を決める判断力が重要です。まさに「設計者には経験が重要だ」と言われる所以です!