吊り具と荷役機械設計のヒント帳

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強度と剛性の違い ― 設計者が絶対に押さえておきたい基礎概念

2025-07-02 19:42:51
2025-07-02 19:50:08
目次

技術的な打ち合わせで「強度」と「剛性」を混同してしまうと、議論がかみ合わず意思決定を誤る恐れがあります。今回は強度・応力・負荷・変位量・ひずみという5つのキーワードを整理しながら、「強度」と「剛性」の本質的な違いを解説します。


1. 用語を正しく整理する

負荷(Load) ・・・ 部材に外部から加わる力・モーメント

          代表的な単位:F [N], M [N·m]

          そもそもの「外力」。

          荷重条件の設定ミスはすべての計算を台無しにする。

応力 (Stress)・・・ 単位面積当たりの内部抵抗

          代表的な式と単位:σ = F/ A [N/mm2] 

          破壊リスクを数値で語る指標。

          「どれだけ壊れやすいか」を示す。

強度 (Strength)・・・ 「壊れるか否か」の閾値

          引張強さ、降伏応力など [N/mm2] 

          許容応力設計では“σ ≤ 許容強度”かを確認。

変位量 (Displacement)・・・点の変形量

           代表的な記号、単位:δ, Δ [mm]

           変位の絶対量。

           剛性・振動・クリアランス検討に直結。

ひずみ (Strain)・・・  変形の割合

            代表的な式:ε = Δℓ / ℓ₀ [―]

            単位はもたない。

            変形量と元の長さの比率。

            応力に比例する。

剛性 (Stiffness)・・・  変形しにくさ

            断面二次モーメント I と材料弾性係数 E が支配。


2. 強度 ― 「いつ壊れるか」を決める指標

  • 強度は破壊限界値
    例:SS400 の引張強さは ≈400 MPa。応力がこれを超えると破断する。

  • 材料固有+欠陥の影響
    溶接ビードの下にできた未溶融部や鋳造の巣は強度低下の主因。

  • 設計実務では安全率で扱う
    許容応力 = 引張強さ ÷ 安全率 (通常 1.5–3 程度)。


3. 剛性 ― 「どれだけたわむか」を決める指標

  • 力に対する変形抵抗
    ばね定数 k でも曲げ剛性 EI でも「硬さ」を定量化。

  • 断面二次モーメント I が効く
    同じ材料・同じ質量でも、I形鋼は丸棒よりはるかに高剛性。

  • 高剛性=高強度ではない
    薄肉 CFRP パイプは鋼パイプより剛性が低くても、引張強度は鋼より高いことがある。


4. 強度と剛性を取り違えると何が起こるか?

例:釣り竿

柔らかいロッド・・・ 剛性が低い → 大きく撓む

           最大応力は(梁として)低い

           結果、★折れにくい

硬いロッド ・・・ 剛性が高い → あまり撓まない

          最大応力は高い

          結果、★先端で折れやすい

  • 柔らかい竿は曲がることで応力を分散し、強度を稼いでいる。

  • 硬い竿は同じ荷重でも応力集中が起きやすく、破壊リスクが増す。

結論:剛性を上げれば必ずしも「丈夫」になるわけではない。
目的(変形制御・振動抑制など)に応じて強度と剛性を独立に評価すること。


5. 実務でのチェックリスト

  1. 負荷条件を漏れなく洗い出す

    • 静的荷重/動的荷重、衝撃、温度応力などを区分。

  2. 応力解析で最大応力を把握

    • 手計算でも FEM でも良いが、境界条件・拘束の設定が肝。

  3. 許容強度と比較

    • 安全率を明示。素材ミルシート値か実測値かも記録。

  4. 変位解析で機能要件を満たすか確認

    • ガタつき、芯ずれ、クリアランス超過を回避。

  5. 剛性向上策

    • 断面形状最適化、リブ追加、材料変更 (高 E 材)。

  6. トレードオフ評価

    • 質量増・コスト増と剛性アップ、強度アップのバランスを数値で示す。


6. まとめ

  • 強度:破壊を防ぐための“限界値”

  • 剛性:変形を抑えるための“硬さ”

  • 応力:負荷に対して発生する内部抵抗

  • 変位量・ひずみ:変形を表す量的・比例的指標

強度と剛性は相関するが別モノ
設計現場では「荷重→応力→強度」と「荷重→変位→剛性」の2本立てで評価し、正しい用語を使い分けて説得力ある技術議論を行いましょう。


次回予告

次回は「安全率の決め方とリスクベース設計」を解説予定です。お楽しみに!

by おち機械デザインプロダクツ合同会社

この記事を書いた人

越智誠二

約20年間、機械設計一筋で様々なメーカーのものづくりに携わってきました。 おち機械デザインプロダクツ合同会社の代表を務めています。 さまざまなメーカさんから設計実務をご依頼いただいております。 荷役機械メーカさんで技術顧問としても参画させて頂いております。